営業とマーケティングそれぞれの部署は、お互いに何をしているか、あるいは何をしているかはうっすらわかっていても、その苦労や相乗効果などに気づけないことも多いです。
お互いへの理解が足りていないと、部署間対立を招くこともあり、全体のモチベーションや成果を下げてしまいます。
営業とマーケティングでは仕事内容、役割がそれぞれ違います。役割の違いによってもたらされる効果は、企業全体のために、自分より後のプロセスに効率化を図るためなど様々です。
そこで今回は、営業とマーケティングの違いについて解説します。
営業とマーケティングの基本的な仕事内容
営業とマーケティング、それぞれの仕事内容がどう違うのかについて解説します。
営業の仕事とは
営業は主に商談を取り扱います。
現代、幅広く取り入れられている営業パイプラインという営業プロセスの中ではマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスという4部門のうちのフィールドセールスに属します。
フィールドセールスは日本語では外勤営業と呼ばれ、その名の通り社外での営業活動を担当します。
営業には基本的に流れがあり、その中ではマーケティングやインサイドセールスが創出したリードが商談のアポイントを取るべき顧客としてパスされます。
商談では営業担当者が顧客の困りごとや課題解決に取り組み、解決策として自社商材を提供することで会社の売上にします。
マーケティングの仕事とは
マーケティングが行う仕事は、リードの確保、創出です。
リードとは自社商品の購買ターゲットとなる可能性がある見込み客のことです。
リードの中にはプロスペクトと呼ばれる「購買可能性が高い層」、サスペクトと呼ばれる「購買可能性はあるものの、まだその可能性がわずかに潜在しているにすぎない層」などが存在します。
マーケティングはリードの価値を見極め、インサイドセールスへ引き継いで購買可能性を高めてもらうよう仕向けることが仕事です。
ほか、顧客層の把握や、ブランディング、商品やサービスの開発、企画、設計、リサーチ・分析、プロモーション活動・広報、チャネル(販路/流通)、価格設定、顧客情報の管理などを担当します。
営業との大きな違いは、直接なにかを販売するわけではない部分です。
マーケティングの役割とは、経営学で著名なピーター・ドラッカーによれば「販売のための行動を不要にしてあげる」ことであると定義されています。
この場合の販売は、「売り込みにいく」というような能動的な行為を指しています。
マーケティング活動において最大の理想・究極的な形では、何もしなくても勝手に物が売れていく状態、とされています。
ドラッカーの提唱する販売が意味する範囲には営業活動も含まれますが、現実的には上記究極形のような販売力を持つことは難しいとされています。
販売促進などマーケティングが役割を発揮すれば、商材自体の知名度が上がり、営業パーソンが商談で一言二言話せば契約に進める、といったプロセスの簡略化であれば、大いに実現の余地があるといえるでしょう。
営業とマーケティングの主な違い
営業とマーケティングの役割を知ると、その仕事内容はかなり違うとわかります。
そこで本章ではその違いを深堀りしていきます。
【違い1】ターゲット
営業は、商談で自分の目の前にいる相手に対して提案を行い、結果として商材を購入してもらいます。
マーケティングはなにもないところから潜在顧客を探さなければなりません。営業のように顧客と1対1で向き合うというよりは大きな集団、市場を相手にしていると言えるでしょう。
マーケティングは、その大きなターゲットを相手にするために、例えば市場をセグメントで分類し、構造化・モデル化することでよりターゲットを絞りやすくします。
その中から、改めて市場のニーズを把握することでどういったプロモーション活動をするかを検討したり、販売促進につながる戦略を立案します。
【違い2】目標・目的
営業は目標が個人ごとに数値化されていることに大きな特徴があります。
指標は短期的なものから中長期的に設定され、四半期~半期~年間といったスパンで評価されることが多くなります。
マーケティングの目標では売上数が問われることはありません。これはマーケティングが販売を行うわけではないためです。
数値的な目標と言うよりは、市場に潜在する見込み顧客をひとりでも多くすくい上げ、インサイドセールス以降のパイプラインへとパスすることが目的です。
市場からいかに多くの見込み顧客を掴み取れるかは、それまでのプロモーション活動が適切かどうかにかかっています。つまり市場のニーズを上手く把握するといった、企業として顧客といかに親しく寄り添えるかといった質的な感覚がポイントとなります。
オウンドメディアを運営している場合はマーケティングがその担当となることもあり、月間ビュー数などがKPIとなることもあります。
【違い3】顧客に対して費やす時間
営業は、一度に担当できる顧客の数は必ずひとりだけです。つまり一度の仕事で1件しか案件を処理することができません。
またよりすぐりのリードから自社商材が問題解決に適しているとされる顧客とピンポイントで会い、商談を行うため、準備も含めたひとつの行動にかける時間コストが大きくなります。
このため、営業には効率重視で次々に顧客と向き合うことが要求されます。その結果としてひとつの案件と向き合う時間の縮小が目指されます。
特に消費者を相手にするビジネスではなくBtoBの場合は、買い手である顧客と直接対峙する営業の重要性は非常に高まります。
マーケティング活動は市場が存在する限り続くため、市場という顧客との関係はほぼ永遠に続くことになります。
マーケティングにおける顧客との長期的な関係は顧客生涯価値(LTV)として表されることもあります。
【違い4】必要な技術
営業とマーケティングでは、職務の遂行のために求められるスキルが異なります。
営業では顧客との商談を円滑にすすめるコミュニケーション能力や、顧客が潜在的に抱える困りごとを表面化させるためのロジカルシンキングなどが求められます。
このように基本が対人環境であるため、他部署に比べて圧倒的にメンタルの強さを備えることも必須になります。
上記の能力は他部署との連携をすすめる際にも役立ちます。このため営業にたずさわったことがある人材は他部署でも即戦力となるケースが多いです。
一方マーケティングでは膨大なデータから顧客が何を求めているかといった分析を行ったり、顧客を購買にいざなう行動経済学的な知見、客観的視点が必要になります。
マーケティングはデジタル化が特に進んだ分野です。顧客データをデジタルツールを用いて集積することも一般的になったため、DX知識も必須となりつつあります。
また2でも触れた通り、メディア運用知識やSNSを運営する場面があったりと幅広い知識が要求されることもあるでしょう。
部署としてのマーケティングには、あらゆる手段を尽くして現在置かれた状況を把握し、自社の販売戦略における舵取りが求められます。
【違い5】取り扱う営業支援ツール
営業支援ツールにはSFA、CRM、MAなどがあります。
営業ではSFA(Sales Force Automation)を使うことが多いです。理由は顧客情報の一元管理ができたり、案件の進捗情報、受注見込み率などを可視化することが可能となり、従来であれば人間が労力を費やさなければならなかった活動をカットするなど大幅なコスト削減が期待できるためです。
最近では、大企業などにおいてAIが取り入れられた最新世代のSFA活用が広がりを見せています。
AIはデータドリブン(自動での情報集積、集められた情報を分析して課題解決への指針を立てたり、次の判断を決定すること)が可能であり、SFA上では売上予測の可視化といった精度の高い活用がなされています。
マーケティングが利用する営業支援ツールはMA(Marketing Automation)です。
MAツールはリードのリスト化を行ったり、温度感の高い顧客を判別し、メールマガジン自動送信のようなマーケティング活動を支援します。
ほか、BI(ビジネスインテリジェンスツール)を使うこともあります。
BIはビジネス上の意思決定を支援するツールであり、命令した情報を図やグラフなどで可視化してくれるものです。
さらにオウンドメディアを運営するのであれば、アクセス解析ツールなどを用いて利用者の流入経路を探ることも問い合わせ向上のために必要です。
営業とマーケティングは対立しがち!協力のために必要なポイント
企業活動におけるひとつのパイプライン上において、営業とマーケティングはインサイドセールスを介してつながっていますが、部署自体は別々であるだけにお互いの業務が理解できていないことも起こりがちです。
相互理解をなくすことによる最大のデメリットは業務の分断です。
例えば、業務の分断状況下ではお互いの情報共有が上手く運ばないため、マーケティングが無作為にリードを生んでしまい、インサイドセールスやフィールドセールスの手に負えない案件数となってしまうことが予想されます。
そんな状況下では、マーケティングが本来行うべき販促活動の最適化も図れずに、無作為な広告掲出となってしまい費用だけが膨れ上がってしまう可能性もあります。
実際には、営業とマーケティングはこれまで見てきたように、それぞれにしかできない役割を日々こなしていて、どちらも営業プロセスを支える重要な柱です。
そこで以下からは、営業とマーケティングが上手く協力するために必要なポイントについて解説します。
【ポイント1】お互いが掲げる目標の違いを認識する
これまで解説した営業とマーケティングの違いでもわかったように、各課はそれぞれ目標もターゲットも異なります。
つまりそれぞれの成果は一概に比べられるものではありません。
もともと、社内で何かを比べるという行為もすべきではありません。
個人目標に数値を取り入れるのは必要かもしれませんが、全体で比べてしまうとどうしてもトップセールスなど成績優秀者を基準としてしまいがちです。
このため個人目標は、先月までの数値を平均したものをストレッチゴールとするなど工夫が必要です。
部署間においても同じで、極端に言うと例えば「マーケティングが市場という大きな集団を相手に戦略を練っているが、営業は一度に1人しか顧客を処理できないじゃないか」、といった文句は筋違いとなります。
個人目標と同じように、部署同士の成果についても手法やターゲットが全く異なるため比べるべきではありません。
お互いの役割・目標の違いを意識し、部署間で共有できる「新サービスの提供数を何百件にする」といった会社全体を包み込むような大きい最終目標を掲げるなどして、協力を試みてください。
【ポイント2】情報共有のために横断的な対話・営業支援ツール利用
営業とマーケティングがそれぞれの情報を共有することは成果を出すために必要です。
例えば、「自社営業部がどのようなクライアントに対して、より受注率を高くするのか」といった傾向がはっきりすれば、どんなマーケティング活動をすべきか、どんなリードを創出すべきかといった指針が打ち出せるため、営業パイプライン全体の成果に貢献します。
上記を実現するには、営業・マーケティング間だけでなく、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセス各部署間の壁を取っ払った横断的な対話の機会を創出することと営業支援ツールの共有化が必要です。
カスタマーサクセスが、成約後の顧客をサポートすることで新たな悩みや課題を発見することがあるかも知れません。そこで得られたユーザーの声は、全部署への有用なフィードバックとなります。
営業支援ツールの中には前述のSFA、MAが統合された仕様のものもあるため、上手に使えば高い効果が期待できます。
【ポイント3】営業がマーケティング的思考を取り入れる
営業の立場ながら、マーケティングでよく使われる考え方を取り入れることも商談を円滑に進めるにあたって効果的です。
営業が取り入れるべきマーケティングの考え方は、3C分析、4P分析、PEST分析などです。
それぞれ顧客の購買行動を引き出すにはどの数値を比較すべきか、自社商品の置かれた立場をいかにして見直すかの指標となり、商談プロセスで最も大切な「事前準備」の円滑化を促進します。
連携するにはSLA(サービスレベル合意書)を作成する方法もあります。これは、部門間同士で提供し合う成果物についての合意書です。
部署の横断的な連携機能を持つ部署を新たに創出することも手段のひとつです。もし新たな人員が確保できない場合は、それぞれの部署から同数比の人数を選出し、兼任してもらってはいかがでしょうか。
役割の異なる営業とマーケティングで協力し、大きな結果を残そう
営業とマーケティングは、営業プロセスをパイプラインで見た場合、インサイドセールスを挟む形で連携する部署です。
マーケティングが創出したリードをインサイドセールスが育て上げ、良質なリードを営業に受け渡し、成約率の底上げに貢献します。
このように、もともと連携することで受注という大きな目標を達成することが求められるそれぞれの部署ですが、お互いの役割や必要スキル、その違いを意識することで理解を深め、より強固な連携ができるようになります。
さらに一方の技術が一方に相乗的な効果を生み出すこともあるとわかりました。
ぜひ部署間で横断的な対話を繰り返し、受注の成功率を高められるよう協力してみてください。