「営業活動のDX化」という言葉を耳にするようになったものの、「そもそもDXとはなにか?」「なぜDX化する必要があるのか、わからない」という声が聞かれます。
営業のDX化にはやり方があり、自社に適した手段を見つけることでどのような分野の企業でもDX化が可能になります。
やみくもにDX化しようと焦ったり、周りに流されるまま導入しては失敗してしまいます。そこで本記事では、営業部門のDX化についてその意義やメリット、コツを交えながら詳しく解説いたします。ぜひ自社に合ったDX化の方法を見つけてください。
「営業のDX化」ってどういうこと?
そもそも「DX」という言葉に慣れないビジネスパーソンも少なくないことと思われます。「DX」はデジタル・トランスフォーメーションの略称(海外ではDigital Transformationの「Trans」の部分が「X」と表現されることがあります)で、経済産業省が2019年に打ち出した「『DX 推進指標』とそのガイダンス」では以下のようにDXが定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
営業活動におけるDX化とは、自分たちの「営業プロセス」にデジタル化をもたらすことであるといえます。
詳しく解説すると、営業のDX化とは「顧客の購買行動を基盤として自分たちの営業プロセスを再構築すること」です。営業プロセス再構築のためには、デジタルなプラットフォームやツールの利用が必要。
顧客の購買行動と営業プロセスを最適化できれば、営業のDXが実現できたといえるでしょう。
営業部門にDXが必要な理由とは?
営業部門にDX化が必要な理由として、デジタルデバイスの進化や、オンラインサービスの充実により顧客にとって情報の取捨選択が簡単になったことが挙げられます。
例えば情報収集力が高い顧客に、前時代のような対面営業によるアプローチをしようとしても効果的ではないどころか、「時間の無駄である」と拒否される可能性が高くなります。そんな時は、例えば「インサイドセールスの活用により非対面アプローチを続けることで熱量を図る」というやり方のほうが成約につながりやすいことも。
また企業側も、営業プロセスや顧客データをデジタル化することで「情報集積」や「データの可視化」が可能となり、経験に基づいた実践的なノウハウや知識が得られるようになります。
ほかにも例えば、「リードとの初めてのアポイントは全てオンラインツールを用いた形式に統一する」といった方法を選べば、交通費などの間接コストを全額カットできるでしょう。
以降の項目【営業部門にDXが必要な理由3】でも触れますが、2020年以降、急な「コロナ下」という状況に投げ出されました。多くの企業はコロナ下において、対面の機会をできる限り排除するために嫌でもDX化を進めざるを得ませんでしたが、適切なDX化ができているかといえばそうではないケースが多く見られます。その企業に適したDX化とは、第三者の真似をするだけでは実現できないのです。
それでは、そんな現代で営業のDX化をすべき理由について見ていきましょう。
理由1:営業部門に7つのメリットがあるため
営業をDX化することによって、セールスする側にも顧客側にも以下のようなメリットが生まれます。「営業部門にDXを取り入れると得られるメリット」7つをご紹介します。
【メリット1】各業務プロセスのデータ化・可視化を実現
営業部門という属人化しやすい組織にとって、DX化がもたらす大きなメリットは営業支援ツール導入による「データ化」です。
営業プロセスにはリード創出やナーチャリング、商談など実際にはさまざまな段階があります。しかしそれらは営業支援ツールなどに各プロセスをデータ化しなければ可視化できず、ノウハウや知識を蓄積することができません。
案件ひとつひとつの成功や失敗をフォローし、次につなげ、全体の成長を支えるためにも各業務のデータ化は効果的です。
【メリット2】インサイドセールス部門の設置
営業のDX化により「インサイドセールス部門」を設置できます。
インサイドセールスとは非対面型・内勤で進められる営業活動のこと。電話やメールマガジン配信、問い合わせ対応といった様々なアプローチ手段を持ちます。
成約確度の高い顧客を見極め、リードへの育成(ナーチャリング)も可能。
インサイドセールスを取り入れることにより、遠隔地の顧客とも商談可能となります。つまり商圏が拡大するという大きなメリットが生まれます。同時に移動費などのコストカットも実現します。
【メリット1】と同様に、ツール導入により顧客層のデータ化とともに情報の集積が起こるため、情報の可視化により「今後どのような分野をターゲットにすべきか?」といった傾向も判断しやすくなります。
【メリット3】営業効率(リード獲得・商談化)の向上
インサイドセールス部門を立ち上げることにより、これまで導入していなかった企業にとっては営業効率が格段に上がることがわかりました。
インサイドセールスは、潜在顧客の選別、見込み顧客の育成(リードナーチャリング)、フィールドセールスへのパス(商談)といったプロセスをほぼ非対面・社内作業のみで進められるためです。
インサイドセールス部門の設置により、時間的効率やコスト減といったメリットを創出し、より多くの案件を導き出せるようになるでしょう。
【メリット4】BCP対策および、営業活動継続の実現
営業部門をDX化することで「BCP対策」の実現が可能です。
BCPとは、地震や津波、火事のような災害時でも事業を続けられるような枠組みのこと。致命的な災害時でも事業が継続できることは企業にとって大きなアドバンテージとなります。
後述の【理由3:アフターコロナ時代に対応するため】にも挙げたような大規模パンデミック下でもその機能が存続できた企業は、あらかじめDX化に対応できていたというケースが多いです。具体的には、もともと出社しなくても良いような体制が整っていたか、あるいはすぐにリモート環境へ移行できたかどうか。
他にもオンライン会議や文字チャットといったプラットフォームを整備しておけば、遠隔地からでも通常の業務につつがなく対応することが可能です。「会社の近くに住んでいる人しか従業員にできない」という縛りから脱却できることは、企業に多様性をもたらし、体力の基盤を生み出します。
感染症によるパンデミックは「第○波」と呼ばれ、冬の時期に発生しやすくなっていることが判明しているため、今後もBCP対策を万全にすることは必須といえるでしょう。
【メリット5】営業コンテンツの資産化
インサイドセールスやマーケティングといった部署では非対面・リモート環境でのセールス活動を実現します。そのため、後から応用できるような「営業素材」を資産として残せます。
例えば、配信するメールマガジンやナーチャリングでのトークスクリプト等。
他にも、もし活発なWebセミナー開催があるなら、商談直前のフェーズで「顧客へ課題解決の道筋を示すために、Webセミナーの録画を流す」といった活用も考えられます。
このように営業活動をすればしただけ「資産」が社内に蓄積することになり、以後の営業活動をより円滑なものにします。新入社員ながら社内のノウハウに従って商談を進めただけで、いきなり成約を勝ち取ったりといった再現性が導き出せるようになります。
【メリット6】LTV(顧客生涯価値)の最大化~「モノ消費」から「コト消費」への対応
現代では、消費者から「モノ消費」よりも「コト消費」が求められるようになりました。
日用品や食料品等まさに「物」を売るよりも、買い物体験そのものを売り物とする考え方
例えば、新書がリリースされたらただ店頭で売るだけでなく、サイン会を開いて作者との交流を促すといった例が「コト消費」に該当します。
カスタマーサクセスのように、売った後の顧客の目線に立ったフォローをする部署を設置することでモノ事業でも物を売って終わりではなく、コト消費が実現できます。
コト消費は、顧客のLTVを最大化することにつながります。カスタマーサクセスはクロスセルやアップセルといった優良顧客の育成にもつながるため、DX化でぜひ取り入れたい部署です。
【メリット7】商品・サービス開発力の強化
顧客に「コト消費」を提供するためには、顧客体験の価値(CX)を上げることが必要でした。
DX化によりCXを向上させられる理由は、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスが協力しあうことにより、顧客とのつながりが始まった当初から「密接に寄り添った付き合い」ができるからです。
そのため、顧客ごとに商品に求める機能の違いなどがわかるようになり、商品・サービス開発へのフィードバックがスムーズにおこなえます。
顧客の課題を解決するということは、綿密なヒアリングをおこなうということでもあるため「自社に足りないものも可視化できる」という構図が得られます。以後、同じような課題を抱えた顧客が現れたときにも、落ち着いて対応できるようになるでしょう。
理由2:営業部門が抱える課題を解決するため
営業部門にとってDX化は、理由1で紹介したメリットが得られるとわかりました。
しかし営業部門は上記メリットを差し引いても、常に課題を抱えがちです。以下のような課題も、DX化によって解決できるようになります。
インサイドセールスの導入で移動費など間接コスト削減、ノウハウ共有により再現性を担保(【理由1】メリット2参照)
インサイドセールスの導入、フィールドセールスとの協力により分業、効率化を実現(【理由1】メリット2参照)
DX化の促進により営業部門は細分化します。すると各セクションでノウハウが共有でき、事例ごとのナレッジが蓄積されます。
ノウハウや知識の共有は再現性を実現します。担当者がいないと案件が進められないというケースを排除(属人化を防止)できます。同時に、案件獲得→リード創出→商談化といったプロセスを、能力格差に左右されず達成できるようになります。
営業支援ツールなどの導入により、案件や社員個人の活動がどのように動いているかを目視でき、傾向対策の把握になります。また、オンライン商談なら録画してフィードバック簡易化も可能。
リモート体制の整備などで実現可能(【理由1】メリット4参照)
理由3:アフターコロナ時代に対応するため
新型コロナウイルス感染症が拡大したことにより、人と人が接触し合う状況はことごとく避けられるようになりました。
各企業の担当者同士も、それぞれテレワーク・リモートワークが導入されたことによりオンラインツールでつながりやすくなりました。このような状況がスタンダードとなるのがこれからのアフターコロナ、ニューノーマルと呼ばれる新しい時代です。
新しい環境では、購買行動の変化も起こりうるため、いかに同業他社との差別化を図るか、といった優位性が重要になります。優位性を得て、環境に対応していくためには、DX化をどれほど進められているかが基準となるでしょう。
理由4:グローバル企業とのDX事情の差を埋めるため
日本企業はDX化が遅れているとされています。ガートナージャパン社による2021年の調査では、日本企業のデジタル化は世界に比較して2年遅れており、過去にはDX化以前の成長段階にあるケースが圧倒的に多いことが指摘されました。
実際に日本では、生産管理や流通のような「現場」にデジタルな試みがあまり取り入れられていません。ただ、DX化が進んでいなくても、企業活動それ事態は進行させられるため、DX化が済んでいないことへの危機感を覚える機会も少なくなっています。その間にも海外ではDX化が進み、GAFAMのようなIT企業大手が台頭しました。
海外からの新しいシステムやサービスに対応するためにもDX化は必要ですが、日本の企業はそもそも、DX化に至るよりも前の段階(例:データが紙のまま、顧客情報の管理媒体が従業員によってバラバラ、etc……)であることも多いため、「自社に必要なDX化とはなにか」を見極めてからDX化を始めることも大切です。
営業部門をDX化すると、具体的にどうなる?
「営業部門のDX化」によって、以下のような変化が得られます。
DX化の具体例 | 説明 |
商談のオンライン化 | Zoomのようなビデオ通話アプリを取り入れることにより、時代に即したオンラインセールスを実現。電話よりも相手の温度感が見えやすく、コストをかけずに遠隔地の相手とも商談できるというメリットも。 |
効率的なメール配信・メール自動化 | 営業支援ツールを取り入れることにより以下を実現。 ・リードが今どんな段階にいるのか可視化 ・どういったタイミングでステップメールを送るべきか、あるいはメルマガに留めておくべきかといった判断が簡単に ・ツールによっては自動配信も可能。テンプレートが用意されていることもあり、作業時間短縮にも |
PULL型営業の実現(コンテンツの充実) ※PULL型営業とは:顧客から直接問い合わせをもらう手法 | インターネットメディアコンテンツの作成により、PULL型営業を実現。顧客が自ら知りたい情報を調べる時代になったため、オウンドメディアやSNSの運用が営業活動をより効率化させる。 |
営業支援ツールの活用 | メール配信の項目にも登場した、営業支援ツール(MA・CRM・SFA)の導入。顧客との関係・行動や成果の可視化をもたらし営業活動を大きく支援する。 (例)顧客情報を属性によりリスト化、案件ごとに誰がどのような対応をしたのか等が一目でわかるように管理可能、各課の橋渡しを円滑に。 担当者がその都度情報を入力する必要があるが、携帯から外出先でもログイン可能なツールがほとんど。 商談を終えたばかりの担当者でも難なく利用可能。 |
顧客を分析する手段の変化 | ツール活用により例えば「過去にこのような行動を取った顧客とは、この商品の成約に結びつきやすかった」等、今後に活かせるデータが簡単に入手可。 |
デジタルマーケティングによるリード獲得プロセスの刷新 | ・インサイドセールス部門の設置により、新たなスタンダードとなりつつある内勤でのリード獲得を実現、商談の機会を創出 ・手段は営業メールやメディアコンテンツ、Webセミナー開催など ・電話や対面といった手段は確度の高くなった状態になってから初めて利用(フィールドセールス部門へパス)するため時間を節約、飛び込み営業のような手法よりも低コストを実現 |
セールスイネーブルメント(営業活動の数値化、効果測定、教育研修) ※セールスイネーブルメント(SE)とは:成果を継続するために総合的に組織を強化・改善していくこと | SEに必要な、営業プロセスの管理や担当者教育などを「数値化された施策の成果」の活用により推進。 (例)セールスの現場で効果があったノウハウを元に研修プランを開発していき、PDCAを回し続けて改善につなげていく |
営業DXを成功させるためのコツ7つ!
型通りに進めても、営業部門のDX化はできません。そこで本章では、DX化を進めていくために必要な7つのコツをご紹介します。以下の方法で、自社に合った適切なやり方を見極め、無理も無駄もないDX化を実現してください。
【コツ1】自社のレベルを見極め、DX化への環境づくりをしよう!
営業部門をDX化したいと思っても「社内の幹部がどう思うか」といった問題や、「営業支援ツールなどの導入に抵抗を示さないか」等、壁がどこかにあるはずです。左記のような場合、まだDX化を始められるレベルではなく「そもそもDX化とはなにか」から始めなければならない段階かも知れません。
こうなると、DX教育のために外部からコンサルを招いたり、DX化した際に目指す目標を決めるなど環境整備が必要になります。
【コツ2】自社の課題が本当にDXで解決できるかを考えよう!
自社のレベルが解ったら、課題の洗い出しに移ります。
例えば新規リードが創出できていない、売上の達成目標に届かない、問い合わせが少ない……等が考えられます。挙げられた課題が、本当にDXによって解決できるのかを考えましょう。もしかしたら管理職に問題があって、部署が機能していないなど人為的な問題が判明するかも知れません。
いきなり「すべてをDXさせる!」と意気込まず、無駄なコストを回避する対応策も持っておくべきです。
【コツ3】DX化する目的をはっきりさせ、ツールを選定しよう!
自社がDX化すべき状態にあるとわかったら、DXによって実現したいことをはっきりさせましょう。
目的がはっきりしていなければ、突然始まったDXを持て余してしまったりと今後の戦略がうまく立てられなくなってしまうためです。
「周りの影響があったり、ニュースでよく聞くから」といった考えからは脱却し、例えば「DX化により、自社にインサイドセールスを設置したい」というような明確な目的を持ってください。インサイドセールスを実現したいのであれば、必要な人員や設備の確保、営業支援ツールを導入するだけで達成できるかも知れません。
営業支援ツールもMA・CRM・SFAと分かれており、提供する各社ごとに強みのある機能が分かれているケースが多いです。自社の目的に合わせてツールを選びましょう。
ツール導入も「まず導入してからDX化を進めよう」という考え方ではなく、上記のようにDX化の目的が明確化してから決定するようにしてください。営業支援ツールは営業プロセスをDX化させるための手段のひとつであり、目的ではありません。
【コツ4】営業プロセスを再構築しよう
DX化のためには、まだ未導入である場合は営業支援ツールなどの導入がほぼ必須となります。
このため、ツールが活用されることを組み込んだ営業プロセスの構築が求められます。
ツール導入を伴うDX化では、ほぼ誰もが既存のプロセスを再構成することが必要となるでしょう。
【コツ3】にあるように、ツールにより何を実現したいのかに基づいた設計をしなければどこかで破綻が起きてしまいます。これまでのプロセスにただツールの入力作業を差し込みました、というような設計は避けてください。
今までおこなってきたこのプロセスはアナログからデジタル化できるから、このツールに反映させれば良い、というような選定をプロセス全体に施していきましょう。
【コツ5】カスタマージャーニーマップを作成して、顧客との接点をデジタル化しよう
顧客との接点は、顧客が自社商品について「興味」を持っている段階や、購入のために「比較・検討」している段階など、レベルごとに得られます。
ツール導入により、顧客が案件ごとにどのような状態にあり、どんな課題を抱えているかが社内全体で把握できるようになります。
そのため、顧客が購買に至るための各段階においてどのように考え、行動するのかが把握できる「カスタマージャーニーマップ」を作りましょう。カスタマージャーニーマップにより、顧客との接点を得る上でどこをデジタル化すべきかがわかります。
カスタマージャーニーマップを作成するための調査には、自社の顧客へのヒアリングが適しています。意外な長所や短所などが見つかり、自社商品について見つめ直せる機会になるでしょう。
また、購買した後の顧客体験を時系列順に可視化出来る「サービスブループリント」やDX化の手順を示す「DXロードマップ」を生成すれば、顧客体験価値の向上に貢献するだけでなくDX化本来の目的をいつでも確認でき、定着を図ることができます。
【コツ6】営業のDX化を進められる最適な人材調達・チーム作りをしよう
営業部門DX化を担当する人材登用にあたっては、単純に「デジタルに強い」だけが基準とはなりません。
それは、営業のDX化には「顧客への伴走」が必要であるため。「どうやって顧客に寄り添った対応をするか」についての知識は、自社商品・サービス販売における顧客との接点を持ち続けてきた担当者こそが豊富に持っています。
DX化を進めるメンバーの中心は、「営業企画・営業推進」にたずさわってきた課員を選ぶべきです。
同課の担当者たちは、日頃から「どういった営業活動をしたいか」や「自分たちの営業活動には何が足りていないのか」を積極的に思考しているからです。
同時に、もしDX化にあたってコンサルタントを呼び込むのであれば、初期段階の設定方法やアドバイスを求めるだけにとどめ、中核メンバーはあくまで内部の社員としましょう。
【コツ7】DX化の運用が開始したら、PDCAを意識して定期的にアップデートしよう
DX化を開始するにあたって、相当数の決定項目ができたはずです。
ただ、初期段階の考えにずっと固執していては、常に変化する顧客の購買行動や、新しい競合商品などに対応することができません。
そこで機会損失を起こさないために、定期的にDX化のための構想を見直し、PDCAサイクルを意識したアップデートを積み重ねていきましょう。
営業にDXを導入して成功した5事例!
営業活動にDX化を取り入れて成功した、5つの企業についてご紹介します。
【事例1】ソフトバンク
ソフトバンク株式会社は、通信企業大手としてデータ管理を円滑にするために営業部門にDX化を導入しました。営業部門は、AI(人工知能)やIoT(「もの」とインターネットが接続された状態)を活用して導入前年度比で利益の増加を達成しました。
社内では、部署をまたいだDX部隊が通信事業やクラウドサービス、デジタル広告事業を網羅的に支援しており効果を発揮しています。
【事例2】関東製作所
プラスチック商品の金型および加工機の設計・制作にたずさわる株式会社関東製作所は、基本的に受注生産で業務が進められていました。そのため、顧客ごとの事業内容により成果が大きく左右されることが問題でした。
そこで業績を安定させるべく、DX化によりインサイドセールス部門を設置。潜在顧客をリード化、および顧客情報のリスト化などデジタル・マーケティングに注力しました。
同社はデジタル・マーケティングにより、1.2億円の新規受注を獲得。2年間で30社の新規開拓を実現しました。
【事例3】IT企業でのKPI再設定による受注率向上
あるIT企業では、リード獲得数は規定数に達するものの成約数が伸び悩むという課題がありました。
そこでDX化の前に「部門同士のスムーズな意思疎通の構築」「人材育成」「適切なKPIの設定」といった自社に足りない課題を抽出し、営業支援ツールによって課題解決に努めました。
DX化によりインサイドセールス部門を設置。ノウハウの共有により即戦力となる人材育成やツールを使ったKPI設定に成功します。結果的に、受注率の向上を実現しました。
【事例4】紙のカタログを使っていたメーカーがアプリ化でコスト削減
販売店向けに紙のカタログを使っていたあるメーカーは、新商品やリニューアルのたびにカタログの再発行をおこなっており、コストがかさんでいることや情報伝達に遅れが生じることに悩んでいました。
そこで、新商品やリニューアル等の情報提供をアプリ上で告知するシステムに統合。情報公開にかかる手間や経費を大きく削減できるようになりました。
アプリにはプッシュ通知で最新の情報が顧客に届けられるため、常に顧客との関係性を保ち続ける効果もあります。
【事例5】エン・ジャパン
こちらは、DX化を提供するという新たな事業を開始した例です。クラウドサービスを提供する企業であれば、自社DX化のノウハウを利用して、同様に新たなサービスが展開できる可能性があります。
人材派遣をメイン事業とするエン・ジャパン株式会社は、国内の中小企業・中堅企業への営業活動およびバックオフィスを支援するためのDX事業を2020年に始めました。
多くの企業が一斉にDX化を進めたことにより、人材不足が発生しやすくなったことを受け、スタートアップ企業と提携することにより人材の派遣・育成がしやすい環境をバックアップしています。
営業DXをおこなう上でのよくある課題・解決策とは?
営業のDX化することで、これまでにない問題点が浮上することが考えられます。そこでDX化におけるよくある課題とはなにか、どのようにして解決すべきなのかを解説します。
【1】どうやって「コト売り化」するか?を考え続ける
「コト売り」のためには、商品やサービスのような「モノ」を売って終わりなのではなく、購買の時点から他では得られない体験「=コト」を提供することが必要です。
つまり、顧客体験価値(CX)を自社製品によりどのように提供できるか、向上させられるかが要となります。
例えばその商品・サービスを提供することで顧客はそのことをシェア(=良い体験をしたという事実)してくれるのかどうか、してくれないのであれば、何が足りないのかを探り、制作・開発に反映させていかなければなりません。
顧客は自分が抱える課題を解決できた時に高い体験価値を感じてくれます。そのため、顧客の課題を自分ごと化して考えながらセールス活動に当たるのはもちろんのこと、セールス後にヒアリングを実施することで自社商品にどのような体験価値を感じているかを判明させるといった手段が効果的です。
【2】焦らずに、少しずつ成功事例を積み重ねることが肝心
営業のDX化により、これまでにないデジタルツールが導入され、顧客体験価値に重点を置いたセールス活動に全体がシフトしていきます。すると、さらに必要なDX施策が判明したり、無駄になっているプロセスが可視化することもあるでしょう。
ただ、DX化での初期投資でツールの導入などにコストが掛かっている場合は、すぐに対応することは難しくなります。同様に、一気に新しいやり方にかえてしまうことは、まだ慣れていない課員にとっては慣れるための時間が必要となり、全体的に見て効率重視とはならなくなってしまいます。
そのためPDCAサイクルを意識しつつも、少しずつ確実に成功事例を積み重ねるなどして下地をつくっていきましょう。焦らずに、後からでも誰もが再現できるやり方を構築していくべきです。
営業DXに失敗してしまう例とは?
営業DXの主な失敗例は、「とにかく営業支援ツールなどを導入すればいい」と軽率に判断してしまい、結果としてある日一方的に「この新しいツールを使うようにしてください」というような指示が社員たちにいきなり飛んで来てしまう状態です。
どのようにツールを活用すれば良いのかもわからないまま与えられたのでは、いずれ使わなくなり、初期投資がまるまる無駄になってしまいます。営業部門のDX化も実現できないでしょう。
【営業DXを成功させるためのコツ7つ!】の章でも解説したように、まず会社全体の営業プロセスを見直し、どのような目的でDX化するのか、DX化することで以前よりも顧客の課題が探りやすく、解決しやすくなるのかなど「自社の強化ができるのか」について深堀りしなければなりません。
つまり、「DX化した後にどうやって運用していくか」という全体的な設計が必要です。
全体的な設計をおこなう上では、各部署がDX化へ向けて同じ意識を共有することも大切です。
同じツールでもマーケティング部ではこの数値しか見ていない、インサイドセールスでは違う、というような統率が取れていない状態では適切な運用ができないどころか、トラブルを招いてしまいます。
同じ目的意識でDX化後を見据えられるよう、各課の意識合わせをその都度、徹底的におこなっておきましょう。
自社営業部門の課題を解決し、時代に合った営業手法を得るためにはDX化が必要!
自社の営業部門をDX化させたい場合、「DX化が目的」となってしまわないように注意しましょう。DX化はあくまで営業プロセスをより効率的にするための手段でしかありません。
自社がDX化によって何を実現したいかと行った目的がないままDX化を取り入れようとしても、初期投資の無駄にしかなりません。まずは自社の課題をすみずみまで洗い出し、見つかった課題を解決するためにどのようなDXを利用した手段があるのかを見極めましょう。
DX化することが決まったら、DX化することによるメリットが本当に自社に適しているのか、DX化を活かすことができるのかを検討し、必要なツールの導入などについて調査してみてください。
そして、DX化を実現するためにはやり方、コツがあります。DX化を失敗に終わらせないために、会社全体で意思疎通を図り人材登用や環境整備を進めましょう。
営業部門のDX化は、進め方さえ間違えなければどんな企業にも合うやり方があるはずです。営業プロセスや商品・サービスの見直しなどクリアする項目は少なからず存在しますが、ぜひ効率的な営業活動を実現するためにDX化に取り組んでみてください。