セールスパーソンは、日々商談に追われますが、一般的に商談が成約・受注につながる可能性はさほど高いとは言えません。
失注、つまり失敗よりも、成功例である受注について分析したほうが結果につながりそうだと思われがちですが、失注理由について分析を深めたほうが企業およびセールスパーソンにとっての伸びしろを高められるとされています。
そこで今回は、効果的な失注分析の方法について解説します。
失注してしまうのにはこんな理由がある!代表的な失注理由3選
営業案件で失注してしまう理由は大別して2種類です。
それは社内に原因がある「内的要因」、社外にある「外的要因」というもの。
それぞれさらに「競合他社が選ばれたため」「自社・他社ともに顧客に選ばれず、進展なく案件が閉じられたため」といった分解が可能です。この内容について解説します。
【理由1】商材が弱いから他社が選ばれる
1つ目の理由は、商材自体に相手へ訴えかける機能その他パフォーマンスがないから、です。
自社商材の能力が、競合他社の類似品に負けている状態です。
機能面だけでなく、競合他社よりも価格が高かったり、納期の速さで負けていたり、サポートやオプションが乏しかったりすると本項目の現象により失注します。
【理由2】営業パーソンにスキルその他が足りていない
続いては商談を担当するセールスパーソン自身に営業スキルやセンスなどが足りていないため失注するパターンです。
いかに商材が優れていても、それを顧客に伝えられなければ失注してしまいます。
この場合は、営業スキルにおけるコミュニケーション力、伝達力が及第点に達していないことが考えられます。
あるいは、顧客の悩み、困りごとを課題化する事前準備や仮説設定のプロセスが不十分である可能性も高いです。
または商談内で顧客のヒアリングができていないか、ヒアリングの時間を設けていても、その内容から課題が絞れていない、顧客の悩みを自分ごと化まで落とし込めていない可能性があります。
【理由3】顧客の選別方法がそもそも誤り・商材がフィットする顧客ではなかった
続いてはターゲットがそもそも違うのではないか?というお話です。
営業、すなわちフィールドセールスが顧客の元へ赴くにはそもそもマーケティングがリーチした顧客にインサイドセールスがテレアポなどでアプローチするなどして顧客を選別しますが、この段階に間違いがある可能性もあります。
この場合、本来であれば見込み顧客として欠けた要素がある相手をナーチャリングなどしており、商談化してしまっているというような原因があるのかも知れません。
なぜ失注理由を分析すべきなのか?分析しないともったいない理由2つ
失注とは言い換えれば、当たり前ですが「受注できなかったこと」です。
受注できなかったことには、何か理由があるはずです。
そこで失注分析を行う理由について解説します。
【理由1】失敗理由を抜け漏れなくするため
上手くいかなかったことを分析することで、その理由を探り、次から再現しないようにしましょう。
分析すると、何がいけなかったのか、何が足りなかったのかが次第に判明するはずです。
次の商談で近いことが起きたときのために、その対策を立てておけば少なくとも同じ理由で失敗することはなくなります。
つまり、失注するたびに分析を繰り返していけば限りなく失敗要因をゼロに近づけることができます。
ひいては、失注分析をすることこそが隙がないトップセールスに近づくための行為とも言えるのではないでしょうか。
トップセールスとなるためには、失注分析が必要条件ともなるでしょう。
【理由2】失注パターンを見抜けるようになるから
失注分析をするメリットとして、「失注のパターンを見抜けるようになる」というものがあります。
これは失注データを必要数集めることにより、その案件が「持てる手段を尽くしても受注にはつながらないケースだ」等と見抜くことができるようになるというものです。
セールスパーソンがどんなに勝ちパターンを組み合わせ、ブラッシュアップされたトークスクリプトを活用したところで「お断り」を放ってくる顧客はどうしてもいます。むしろどれほどのトップセールスであろうと、すべての案件を成約に導くことは不可能です。
「次の手段が使えるか(=その案件をまだ粘るべきか)、それとも撤退したほうが良いか」を早い段階で判断できることはセールスパーソンにとって時間的コストの節約につながります。
時間的コストの削減におけるメリットは言うまでもなく、その分セールスパーソン自身のために費やせる時間が増えることです。
余剰時間の創出により、より受注しやすい案件を探したり、そちらの対策に割く時間が確保できたりと、失注分析することで結果的に受注へ近づけるでしょう。
失注分析のやり方3種
失注からは学ぶべきことが多いとわかりました。
失注分析を取り入れれば、次の受注に近づけるはずです。
そこで本章では、失注分析とはどのようにすればいいのかについて解説します。
【失注分析1】商談を担当した人について分析
失注分析方法のひとつは、失注した案件を担当した営業パーソン自身が商談につく際、どのような傾向があるかについて深堀りするというものです。
調べる項目は「どんな理由で失注してしまったのか?」です。
こちらを深堀りすることで関連情報が見えてきます。例えば、営業パーソンの商材理解度が足りているのかどうか、逆にセールストークは及第点だったが商材に顧客のメリットとなる部分が足りていなかったか、などです。
前者の場合、トークスクリプトのブラッシュアップが、後者の場合は商品開発や企画力に問題があるからテコ入れをしようというように、どこに人員やコストなどリソースを注ぐべきかが判明するでしょう。
上記例のように、どの部署が取り扱うべき問題なのかがわかれば当該部署の作業工程などを見直したりする機会ともなります。
部署・部門単位での改善行動が得られる機会はあまり創出できないため、失注分析によって企業活動に必要なPDCAサイクル回転のチャンスを創出しているとも言えます。
【失注分析2】商談プロセスを分析
セールスパーソンがフィールドセールスという部門で担当するものは商談ですが、この商談をプロセスごとに区切って調査するという失注分析の方法もあります。
商談には流れが存在します。どの顧客相手でも確実に決まっているわけではありませんが、新規案件に向かう際に一定の指標、叩き台となるものです。
詳しくは「商談の流れ」専門記事をご覧ください。簡単に抜粋すると、商談のプロセスとは以下のように区切ることができます。
STEP1:準備・仮説設定
STEP2:挨拶・名刺交換
STEP3:アイスブレイク
STEP4:会社案内
STEP5:ヒアリング・仮説検証・課題の検出
STEP6:プレゼン・商品説明・解決策の提示
STEP7:クロージング
STEP8:お礼メール・フォローアップ
初回訪問ではクロージングが次回キーパーソンとのアポイントとなったり、その場合次回訪問ではアイスブレイクを省いたりなど上記のプロセスには柔軟性があります。
ともあれ、商談において失注したとなると上記プロセスのいずれかに原因があるはずです。本項の失注分析では各ステップのいずれに問題があるのかを調べ、抽出します。
例えば顧客の業界研究などをして、こんなことに悩んでいるのではないかと仮説設定した内容に基づいて提案をしたら的外れで門前払いされた、となれば開幕ステップの準備段階から間違っていたことになります。
さらに、商品説明まではこぎつけたものの、別日に商談したという競合他社の商材の方が勝っていたと判明すればそこで失注となり、競合他社に商材の機能面やコスト等で劣っていた、となります。
プロセスを横断的に分析することで、【1】と同様、社内の部署をも横断的にチェックし直すことにつながります。
本項の場合は、どのプロセスが失注を発生させているのかという発生件数を比較するなどすると「どこに問題があり、どの部署がフォローすべきなのか、各担当者は何をトレーニングし直すべきなのか」といった課題が洗い出せます。
【失注分析3】競合他社、商品について分析
顧客に対してコンペ形式でプレゼンを行ったり、最終的に相見積もりで自社が選ばれなかった場合では、「競合に勝てなかった」ということになります。
この場合、競合他社、または彼らが取り扱う商材について見識を深める分析を行うべきです。
「顧客が自社ではなく競合他社を選んだ理由」を明らかにすることができれば、自社商材に足りない点がわかり、アップデートやリニューアルするためのアイデアにつながります。
また「この企業と競合すると、いつも勝てない」という状況が起きた場合、焦りがちですが【1】のように改善点を探るチャンスが得られたとも言えます。
マーケティング部門や企画開発部等が、プロジェクト発足時に市場調査や競合分析などを行うことはもちろんありますが、現場で生の声が得られるのは本項においてのみです。
各タイミングでの競合分析結果をすり合わせれば、成功イメージを形作る近道となるでしょう。
失注分析する上でのポイント
上記3種の失注分析を行う上では、分析を有利に進めるためのポイントが存在します。
以後の社内業務で失注分析を新たに取り入れた方は、実施する上でぜひ参考にしてみて下さい。
【ポイント1】データの母数を増やすために1年前後さかのぼってデータを集める
これまでの解説で、失注分析で明らかにすべきことのひとつとして「傾向」があると説明しました。
失注時の傾向を探るためにはパターンを集めて比較することが必要です。つまり過去にさかのぼり、膨大なデータを入手しなければなりません。大量のデータから情報を集めれば集めるほど、傾向調査の精度が上がるためです。
このため短くてもせめて単月か四半期、理想は半年~1年以上のデータを収集するところから始めたいところ。
【ポイント2】分析は継続してこそ効果につながる(プロダクト・ライフサイクルの意識)
失注分析を行わなければ、という状態にいるということは、日頃の案件進行においてあまり結果がかんばしくない状態であるとも言えます。
新人営業パーソンだったり、料金プランが新しくなったり、商材自体が刷新、リリースされたばかりで結果が伴わないときもあるでしょう。
そんな折は繰り返し分析し続け、ある程度結果が出てもなお続けることが必要です。
継続が必要な理由は【1】にもあるように、失注データの母数を増やすことで分析時の精度が高まるためであり、仮に結果が上向きの時期であってもその結果が偶然の産物であるかも知れないためです。
商品の売上と利益が時間経過とともにどのように推移するか、というプロダクト・ライフサイクルという考え方があります。
これはある商品がリリースされて以降の歴史を導入期、成長期、成熟期、衰退期という4段階に分けて、リリースから撤退・販売終了までを追うというものです。
プロダクト・ライフサイクルの考え方に従うと、ニーズに追われ競合も活発な成長期と、シェア拡大が必要な成熟期では商品の売れ方に著しい差異が現れるはずです。
このため自社商材が今どの時期にあるのかを見極め、適切なマーケティング活動などに反映させるために、失注分析を継続的に行わなければなりません。
【ポイント3】内的要因・競合要因を合わせて分析する
競合他社に負けてしまう場合、ピンポイントな理由(失注要因)があるはずです。
このため、例えばコンペティションで競合に負けた理由は何なのかとクライアントにヒアリングしたり、ユーザーの声が聞ければアンケートを実施してみることで、競合に負けた理由についてのヒントが得られます。
得られたヒントを、社内における失注要因の分析に活用できれば、まずはどこを改善すべきかといった仮説設定についての指針がはっきりと打ち出せるようになります。
・解決すべき課題の優先度づけ
・課題の中で改善しやすいもの、しづらいものの分別
・改善するためのプロジェクト、チームをいかにして立ち上げるか
社内要因を分析するには非常に多くの企業体力を消費します。要因が商材にあるのか、人材にあるのかを探り、さらにその中でどのプロセスが問題か……と片っ端から調査するとなると、精神的な疲労も多大なものとなるでしょう。
何を優先すればいいかが判明すれば、あとは身体を動かすだけであるためモチベーションの維持もしやすくなります。
【ポイント4】SFAなど営業支援ツールを取り入れ、個人レベルで現場に分析力を落とし込む
これまで解説したように失注要因の分析には大量のデータが必要となりますが、紙などアナログな手段で分析していては業務の全てがそちらに奪われてしまうほどの物量となってしまいます。
このため社内にはSFA、CRMといった営業支援ツールを取り入れ、個人レベルでデータがいつでも取り扱えるようにしておきましょう。
ツール導入により、各商談プロセスやプロダクト・ライフサイクルの可視化、担当者それぞれの得意・不得意分野の傾向も探りやすくなり、どういった改善・研修をとりいれるべきかが見えてきます。
失注は次につなげるための情報のかたまり。分析すべきと認識しよう
商談にはこぎつけたものの失注してしまうことには理由があります。
失注してしまう状況を改善するためには失注分析が必要です。
失注理由は人的理由なのか、商材的理由なのか原因はさまざま考えられますが、全てを調査するのは大変です。
そこで営業支援ツールなどを取り入れ、膨大なデータを簡単に取り扱えるようにすべきです。
データの数が多くなればなるほど分析の精度が上がり、いずれ個人レベルでの改善提案が現場で打ち出せるようになるでしょう。
ぜひコラムを参考に失注分析を取り入れ、商談の質改善へ確実につなげてください。