営業活動のなかでも、とりわけ商談においては、顧客へヒアリングすることが非常に大切です。
ヒアリングによって顧客の抱える悩みが浮き彫りになり、自社商材がその解決策となる可能性が生まれるためです。
しかしながら、いざ商談時に何を聞けば顧客の悩みや課題を引き出せるかはぶっつけ本番でわかることではありません。
そこで今回は、商談の事前準備として有効な、商談のヒアリング時に活用できる「ヒアリングシート」の作り方について解説します。
各項目では「聞くことリスト」の例なども記載しています。ぜひたたき台として利用してください。
ヒアリングシートは、事前アンケートのような形で商談アポをとった顧客に配布したり、商談時にセールスパーソン自身が手元に置きながら話を引き出したりといった様々な活用法があります。
ぜひ自社に合わせた活用法を検討してください。
ヒアリングシートをつくる意味とは?
営業活動においてヒアリングシートの利用は必須といえますが、その理由はなんでしょうか?
本章では、ヒアリングシートをつくるべき理由について解説します。
【1】顧客情報すべてをキャッチアップするため・機会を無駄にしないため
商談は一度きりであり、失敗はあまりしたくないものです。
そのため、その商談の機会で得られるはずの情報は、すべて抜け漏れなく拾い集めておくべきといえます。
ヒアリングシートがあれば、あらかじめ「その商談において明らかにしておかなければならない情報」を一覧にしておき、リスト状にして取り扱えるため便利です。
当日慌てずに業務を遂行できれば、セールスパーソンにとって大きなアドバンテージとなるでしょう。
【2】再現性を担保するため
前項でもありましたが、「顧客に聞かなければならない情報」「今回の商談で明らかにしておかなければならない情報」をリスト化できることがヒアリングシートの特徴です。
リスト化できるということは、商談によって少し内容をいじれば使い回しも可能です。
使い回せるということは「再現性」があるということです。
自分の商談での活用はもちろん、自分以外の担当者も利用でき、部署全体の営業活動に貢献できます。
リストを使い回せるのは、そのリストに価値があるため。つまり質の高いヒアリングリストとなるよう部署全体で共有し、使いこんでいくべきなのです。
リストのどういった部分を修正すべきかについては、商談で必ず必要な準備段階で明らかになるはずです。
リストを使う中でブラッシュアップし続け、その価値をどんどん高めていってください。
ヒアリングシートを「聞くことリスト」のテンプレートとして、商談で活用しましょう。
【3】顧客の悩みや課題を明らかにすることに集中するため
ヒアリングシートによって顧客に聞きたいことがあらかじめリスト化されていれば、さらに顧客の悩みを深堀りできるような「生の声」を引き出すことに集中できます。
ヒアリングシートには、準備段階で構築した仮説設定の内容なども盛り込まれているはずですが、「顧客が本当に悩んでいることが何であるか」については実際に対面するまでわかりません。
そのためヒアリングシートがあれば、ヒアリングシートにも記載されていない顧客の声までをもすくい上げることに集中できます。
仮にヒアリングシート以上の情報が引き出せなかったとしても、シートに埋まっている内容から顧客の傾向を掴むことができます。
ヒアリングシートに記載すべき項目
本章からはヒアリングシートに記載する項目について紹介します。
営業を行う企業が取り扱う商材によって、さらには営業先の顧客の事業内容によってヒアリングシートに載せるべき内容は変わってきます。
特に鉄板とされているのは、「3C分析」の考え方で必要な要素「Company(自社)」「Customer(顧客/市場)」「Competitor(競合)」について明らかにすることです。
また、BtoB営業においてはBudget(予算)・Authority(決裁権)・Needs(必要性)・Timeframe(導入時期)からなる「BANT情報」も必須です。
ほかMEDDICモデル(Metrics/測定指標・Economic Buyer/決裁権限者・Decision Criteria/意思決定基準・Decision Process/意思決定プロセス・Identify Pain/課題・Champion/擁護者)にも、手に入れておきたい情報が詰まっています。
ぜひシートを利用する自分自身にとって必要な情報を足し引きして、うまくカスタマイズすることでベストな状態に仕上げてみてください。
【1】顧客企業の現在の状態
まずは顧客の状況から整理します。
・現在の主力事業、新規事業
・各事業のターゲット
・競合となる相手や商品・サービス
など……
自社商材を提供したいと思ってアプローチしていても、もしかしたらすでに競合他社の製品を利用しているかも知れません。
あるいは、利用したことがあるが何か問題があって利用を中止した過去があるかも知れません。
そういった場合、自社商材の導入ハードルも高くなりがちになるため、ヒアリングがより重視されます。
さらに、事前準備での企業研究からは読み取れない事業に携わっているかも知れません。
公式HPなどの情報からは得られない情報が成約の突破口になることもありますが、顧客の口から現在どういった状況なのかを話してもらわなければわからないことも多いです。
【2】顧客企業の課題
【1】により顧客の現状が理解できると、同時に「どんなことに困っているか/困っていそうか」といった「課題/悩み」が明確になってきます。
商談の目的とは顧客企業の課題を解決することでもあるため、本項は最優先で明らかにすべき項目といえます。
仮に顧客自身は課題について自覚していなくても、【1】や準備段階の仮説設定と合わせてセールスパーソン側が課題に到達できるかも知れません。
むしろ事前準備で構築した仮説設定が検証できる良い機会であると捉え、積極的に課題を推察していきたいところです。
【3】商材への印象
セールスパーソンの取り扱う商材について顧客がどのような印象を持っているかを聞きます。
商談では「うちの商品について、きっとこんなふうに思ってくれているだろう」と仮説を立てること自体は事前準備としてありえますが、本番でも完全に仮説だけを前提に話を進めてしまうことは危険です。
本項の目的は、顧客との間にあるギャップを確認するためです。相手が抱いている印象に合わせた説明が必要です。
そこで、クロージングの直前などに自社商材について説明できる機会が得られそうな場合、自社商材についての印象を聞いてみましょう。
【4】商材についての疑問・質問事項・選定基準
【3】に関連して、顧客が商材に対して疑念点や解消しておきたい質問事項などがあれば明らかにすべきです。
誤った印象を残してしまったままでは成約に繋がりづらくなります。
また疑問を解消できれば、顧客にとっての導入リスクや参入障壁を取り払うことにもつながり、成約率に寄与します。
【3】【4】と合わせて、顧客が商品・サービスを選ぶ際に重要視している部分が見えてくることでしょう。
・これだけは欠かせない機能など
・納期
・アフターサポート/オプション
・費用対効果
・セキュリティ
・ブランドイメージ
など……
【5】顧客側の要望(導入時期・予算・希望価格)
金銭的な話題はデリケートなものであり、いきなりは聞きづらいものです。
そのため、自由記入欄や「ご要望」といった形でスペースを設け、こちら側や商材に対する要望を述べてもらうとスムーズです。
・導入するとしたら、いつまでにが理想か
・商材の導入による成果は、どのくらいの期間で創出したいか
など……
もし事前アンケートのようなやり取りが可能である場合、顧客の費用観を記入できる欄を設けておくと良いでしょう。
・実際に割ける予算はあるか
・予算額は提示できるか
・予算が算出できない弊害はなにか、時間的なものか物理的なことか
など……
※事前アンケートの場合、ここまでストレートに書くのはNGです。もう少し婉曲的な表現にしてください。
<例>「過去に似たような導入事例はありましたか?その際の費用はいかほどでしたか?」
アンケートに記入してもらえていれば、ヒアリングではその内容を元に、これだけの機能やオプションを付けられるのであればどうか、といった譲歩のやり取りが可能になります。
ほか割引キャンペーンと称して個別対応の価格設定を行い、受注に近づけられることもあります。
【6】決裁権・意思決定権を持つキーパーソンについての情報
商談では必ずしも商材購入の可否が決められる立場の人と話せるわけではありません。
仮に商材を気に入ってもらえたとしても、商談で目の前にいる人に決裁権がない場合、また日を改めて商談の場を設ける必要があります。
決裁権や意思決定権を持つキーパーソンとの商談を設けるのであれば、また改めて事前準備が必要となります。
キーパーソンがコストやオンボーディングの必要性などに難色を示す可能性がある場合、そちらへの対処をしなければならなくなるためです。
このため、あらかじめキーパーソンの情報を得ることは、以降のセールスパーソン自身の動き方を決めるためにも必要です。
・新規導入の場合、どのような決裁フローを経由する必要があるか
・今回の商談は決裁フロー上のどのあたりに位置するか
など……
決済フローが明らかになれば、セールスパーソン自身の時間を有効利用することにも繋がります。
すぐさま受注の可能性があるのであれば、優先的に時間を回す案件として扱うべきかも知れませんが、そうでなければ一旦インサイドセールスに差し戻し、自身は別の案件にリソースを割いた方が良いかも知れません。
現在の相手がキーパーソンではない場合でも、もし好印象を抱いてもらえたのであれば、キーパーソンを説得するための情報提供をしてもらえる可能性があるため、いずれにせよ聞かない手はありません。
【7】類似商品や同業他社との契約の可能性について
顧客の事情について、ひいては客観的に自社商材について見識を深めるために、現在他にどんな商材と自分たちの商材を比較・検討しているかを伺います。
顧客にとっては答えづらいことかもしれませんが、遠慮なく答えてもらうよう促すようにしてみてください。
顧客の迷いは、金銭面だけとは限りません。
どんな部分で顧客が他社製品と自社製品を比較しているのかがわかれば、その部分に絞った今後のブラッシュアップやアップデートが可能となります。
上記のような情報は、自社にとっての大切なフィードバックとなります。
自社にとってデメリットは一切ない部分であるため、なんとしてでも聞きたいところです。
もしヒアリングシートを事前アンケートとして利用し、本項目について聞き出せた場合、顧客が気になっている他社商品と自社商品の違いを事前に比較することができます。
商談本番で慌てて他社商材について調べる必要もなくなり、自社の強みを理解してもらえて、商材へのYesを引き出せる可能性が高まります。
【8】商材を実際に利用する人は誰か
番外編として、商材を購入してもらう人(企業)と、その商材を利用する人(例:当該企業の顧客)が異なる場合には注意が必要です。
「商材を実際に利用する人の存在」について明らかにしておかなければなりません。
例えば、会員制施設の入構システムなどを販売する場合ではその施設の職員も利用するかも知れませんが、大半は施設会員のような層であるはずです。
職員に理解できても、会員など実際のお客様にとって不便だったり、煩雑なシステムとなってしまう可能性を残すべきではありません。
利用者層によって、自社が取り組むカスタマーサクセスやフォローアップの展開も変わってきます。導入後を見据えた動きをヒアリング時から意識すべきだと言えます。
ヒアリングシート導入で商談の効率化を実現しよう!
商談の要と言っても良いヒアリングですが、事前に聞くことを決めておけばスムーズに進行させることができます。
「決定版」となるようなヒアリングシートが完成すれば、使い回せるため新人教育や再現性担保の面でも役立ちます。
もちろん常に改善を加え、ヒアリングシートのアップデートを積極的に図りましょう。
各社の商材により、聞くことは様々です。ぜひ自社に必要な聞くことリストが散りばめられたヒアリングシートを生成し、今後に活かしてください。