AIを営業活動に導入する動きが増えています。
ただ、いきなり「AIを導入する」と決められても何をすればいいのかわからなかったり、AIに仕事が奪われてしまうのではないかという不安が拭えないものです。
AIを導入するには、自社の課題を認識した上で、どの部分を変わりに解決してもらいたいのかといった分析も必要となります。
そこで今回は、営業にAIを導入する上でのポイントやメリット・デメリットについて、実際に導入している企業の事例も交えながら解説します。
ここ10年で移り変わった営業の働き方
近年、ビジネスの現場ではAIの導入が進んでいます。
ここ10年間では商社・金融・IT系といったオフィス業務のみならず、医療、農業、漁業といった現場でもAIが取り入れられるようになりました。
当然、営業の現場でも最新の営業支援ツールなどに組み込まれるような形でAIが浸透しています。
テクノロジーの活用が当たり前になった現代。今後営業職はAIの活用によってなくなってしまうのか?
仕事の現場では、常に最新のテクノロジーが貪欲に取り入れられてきました。
営業職にAIを導入するということは一見、AIに営業職のみならずすべての仕事を奪われてしまうことであるようにも捉えられるかも知れません。
しかしながら、AIがすべてを代行できるとは限りません。
パッションで顧客に訴えかける熱量あるプレゼン、ストーリー仕立ての営業などはAIには代替不可能です。
つまり営業活動においては、顧客の感情に訴えかけ、その感情を受け止める役割が人間であるセールスパーソンに求められているのです。
ほかにも、AIは学習しながら機能向上するため、その精度を向上させたり、場合によってはメンテナンスに及ぶ人材が必要です。
AIが間違った学習方法を選んでしまっては、うまく発達しないため、整備・調整活動は常に必要となります。
AIが正常に作動するかどうかには、ITインフラについてのリテラシー(読解記述力)が必要です。
更に遠い未来では、上記さえもAIが担当できるかも知れませんが、近い未来において人間ができることはまだあります。
ただし、AIの活用によって人間がやる必要がなくなる仕事も多い
近年ではAIの導入によって無人化を実現した例も増えています。
例えば、スーパー・コンビニなど小売業や、簡単な製造や検品などを行う工場など。
「機械化」と呼ばれることもありますが、実際にAIが人間を代替している現実があります。
AIを活用した営業支援システム(SFA)とは
営業活動とAIは、実は相性が良いと判明してきています。
昨今、注目されている媒体にSFA(Sales Force Automation)があります。
SFAは営業支援システムの一環で、営業の自動化という意味・機能を持っています。
SFAは営業活動における各プロセスを自動化し、効率的に仕事を進めるために役立ちます。
2000年代にプロトタイプが登場して以降、アップデートによって機能が刷新され、AIが搭載されるまでになりました。
AIを搭載した営業支援システム(SFA)でできること
SFAにより以下項目の内容が実現できます。
顧客管理 | ・顧客情報の一元的な管理 ・社名、所在地、担当者の名前、どの担当者とどこで初めて接触したか ※引き継ぎの際などに有用 |
案件管理 | ・提案中の商品はなにか ・案件の進捗状況 ・受注見込み率/受注見込み額 などを可視化 ※管理職が状況を把握しやすくなり、的確な指示を出せるようになる |
商談管理 | ・商談履歴、訪問履歴 ・商談で話した内容 ・提案書の内容 ・商談の進捗状況 などを可視化 ※部署内での状況共有、クロージング向けのアドバイスなどに有用 |
行動ログ管理 | ・どのような媒体(問い合わせ、名刺交換……)で顧客と接触しているか ・テレアポの回数 ・アポイントの回数 ・訪問回数 ・受注率 などを可視化 ※担当者一人ひとりの行動履歴を確認し、改善点ピックアップなどに効果的 |
売上予測 | ・顧客別売上予測 ・商品別売上予測 ・担当者別売上予測 ・部署別売上予測 などを可視化 |
予算、実績管理 | 同上、予算や実績を可視化させ管理を簡易にするために有用 |
従来の営業支援システムとの違い
AIがシステムに組み込まれる以前、つまり従来あった営業支援システムは、基本的に「管理だけできる」ものでした。
AIが搭載されることにより、管理された情報を利用して、AIが自己学習により利用者へ提案してくるようになります。
例えばAIが過去に受注を達成した企業の共通点を見つけ出し、まだ見込み客ともなっていない膨大なリストの中から自社の商材が合う企業を探してくれるといった活用法が挙げられます。
上記はAIが代わりにデータドリブン(収集データを分析して次の判断を下すこと)や意思決定を行ってくれるとも捉えられ、従来人間がしてきた手順の簡略化、作業の効率化が見込めます。
SFAとCRMの違い
SFAはCRM(Customer Relationship Management)と似ていて、同一視しやすくなりがちです。
SFAは、営業活動にスポットを当て可視化している機能を備えています。
対して、CRMは「顧客管理システム」です。
顧客を中心として情報集積し、顧客の満足度調査やナーチャリング、ステージアップなどのために利用されます。
AIを搭載した営業支援システム(SFA)を導入するメリット・デメリット
本章では、AI機能が搭載された営業支援システムを導入する上でのメリットとデメリットについてそれぞれ3件ずつご紹介します。
AI搭載の営業支援システム導入のメリット
以下からは、AI搭載の営業支援システム導入によるメリットを3点解説します。
メリット1:データに基づいた提案を得られる
AIはデータドリブンや意思決定の手順を代行してくれるため、人間であるセールスパーソンの工数が減ります。
セールスパーソンは基本的に、AIが提案した「次にすべき行動」について、可否の判断をくだすだけでよくなります。
上記の結果からは、膨大なデータの処理・分析能力に捕われずにセールスパーソンが活躍できる環境の創出も期待できます。
メリット2:事務処理の時間を省ける
営業活動では、報告書を作ったり精算のためにたくさんの手順を踏んだりといった事務処理に時間を割かねばなりません。
近年、日本ではセールスパーソンが顧客のために費やせる時間が減少している傾向にあります。
顧客とコミュニケーションするという本来の営業活動に時間が割けず、国際的に遅れを取る理由であるとされ、問題になっています。
AIの能力により任せられる範囲が拡大すれば、書類作成や資料作成など、パターンを使って単純化できる作業も代行させられます。
上記によりセールスパーソンは本来の業務である顧客との会話や質疑応答といったやりとりに時間を割けるようになります。
メリット3:少ない労働力で高いパフォーマンスを得られる
近年、少子高齢化や働き方改革などの影響により人材確保が難しくなっています。
ここでもAIを利用することで、本来人間が担当するはずだった業務を任せられ、少人数でも一般的な企業と同じレベルの案件進行が可能となります。
AIの活用により、労働力不足を回避できるのです。
AI搭載の営業支援システム導入のデメリット
以下からは、AI搭載の営業支援システム導入によるデメリットを3点解説します。
デメリット1:システム導入のためのコストがかかる
AIは常にアップデートされ、最新式のものとして提供されており、利用する側も常に既存のシステムを最新の状態にキープし続けねばならずコストがかかります。
企業毎に取り扱う商材やターゲットとなる顧客も異なるため、細かいカスタマイズが必要となることも。
さらにAIについての専門性や技術を持った人間が内部にいない場合、教育などにかける時間的コストも増えてしまいます。
デメリット2:情報漏洩のリスクが高まる
AIがその機能を最大限発揮するためには、より多くの情報を分析するべく常にインターネット接続し続ける必要があります。
このため、重要な社内機密情報へもアクセス可能なシステムがそのまま全世界のインターネットに繋がっている状態が続き、セキュリティリスクが高まります。
外部からのアクセスを遮断できるシステムを導入したり、誤った操作などで内部から情報が漏洩してしまう懸念に対応できなければなりません。
デメリット3:システムトラブルが発生した時の対処が難しい
AIに使われているディープラーニングという機械学習システムは、中身が「ブラックボックス」と称されるほど複雑で難解です。
このため、AIが導き出した内容に狂いが生じた場合、その原因を特定する作業に困難を極めることが予想されます。
さらには、AIが異常を来した原因に基づく責任の所在について、AIを提供するメーカー側とユーザとどちらが負わなければならないのかといった問題が争点となる可能性もあります。
AIを搭載した営業支援システム(SFA)を上手く活用するための3つのポイント
本章では、AI搭載型の営業支援システムを利用する上で、必ず抑えておきたい3点について解説します。
【1】AI導入後の目的を明確にする
AIの導入は、業務効率化などの「手段」として行われます。
このためAIの導入自体を目的としてしまい、そこで満足してしまうことは危険です。
AIを導入することで、一体何が変わるのか、何を変えたいのかといったAI導入後の目的をはっきりさせ、AIの機能を最大化できるように努めましょう。
【2】自社のニーズに合った営業支援システムを導入する
AI搭載のSFAを導入する上では、自社に適したシステムを選ぶべきです。
必要のない高性能な機能が付属しているものを導入しても、高額なコストをかけただけで無駄になってしまう可能性もあります。
どのようにすれば営業の場で活用できるか、どの営業プロセスに導入すればセールスパーソンの負担を減らし、業務を効率化できるかなど、AIを導入する上でのニーズを事前に見極めておきましょう。
【3】AIを活用できるような人材を確保する
AIに限らず、新しいシステムを社内に導入するためには専門的な知識を持った人材の確保が必要です。
その新しいシステムをどのように使うか社内で把握し、周りに伝えられなければ宝の持ち腐れとなってしまいます。
AIを導入することを検討するのであれば、必要な人材の確保、育成が急務となります。
AIを搭載した営業支援システムの活用事例3選
AIを利用したシステムは実際に日本企業の営業プロセスでも導入されています。
そこで本章では、AI活用例として3社の事例をご紹介します。
【1】日本生命
日本生命保険相互会社は、株式会社日立製作所が提供するAIである「Hitachi AI Technology/H(AT/H)」を導入しています。
AT/Hは、1000万人ともなる膨大な顧客情報を分析し、500のセグメントに分けた上でそれぞれの傾向やニーズに適した顧客向けメッセージを自動生成します。
上記により、新人営業担当者でもビッグデータに裏付けられた精度の高い提案が可能となりました。
日本生命の導入事例は、AI活用による営業能力の均一化や底上げ、圧倒的な工数削減に成功した例となっています。
【2】大塚商会
大塚商会は、営業活動にAIを導入しています。
導入されたAIは日本生命と同じAT/H。営業の現場から得られたデータをAIが分析し、現在どういった状況なのかが判断され、課員が適切に対応できるよう助けます。
もともと現場からすくい上げていたデータは、顧客の課題や取引の履歴、提案進行状況など多岐に渡っており、情報収集から20年経つうちに顧客数も増え続け、相当量となりました。
AT/Hが選ばれた理由は、ビッグデータと化したその膨大な情報の中から分析された内容が、人間の思考方法に基づく非常にわかりやすい根拠で示されていたからでした。
AIの分析結果はわかりやすい論拠が示されているため、セールスパーソンは納得して営業活動ができます。
さらに、どういった顧客に何を提案すべきかが明確化されるようになりました。
AIの活用により時間効率の最大化やその時々のベストな行動を実現しています。
【3】星野リゾート
リゾートホテルなどの運営に携わる星野リゾートは、ブライダル事業においてAIを導入しました。
導入されたAIは、ZOHO Japanの「Zoho CRM」です。CRMの名を持っていますが、顧客を管理するシステムと営業支援システムが一体となっています。
AI導入により、これまでエクセル上で手動入力・管理していた顧客との「接点情報」の収集をAIに任せられるようになりました。
Zohoでは顧客との接点情報がリアルタイムで可視化されるため、来館した顧客への対応、顧客が持っているニーズへの対応が非常に素早くなりました。
導入以後は、情報の集計に抜け漏れがなくなり、手作業での入力という工数もなくすことができました。
AI導入によりタイムラグのない接客・その場でのヒアリングによる顧客満足度の向上、工数削減を実現しています。
AIは仕事を奪うものではなく支援するもの!上手く活用すれば営業効率を向上できる!
AIを導入することで「人間は仕事が奪われてしまうかも」と考えてしまいがちですが、実際のところAIは効率化など多くの利便性をもたらします。
AIは人間には到底処理できない膨大なデータを分析し、根拠のある裏付けとともに次に取るべき行動について提案してくれるため、信頼できるAIがあれば意思決定に費やす時間を省きつつも企業としてベストな行動が取りやすくなります。
AIの導入に際しては、クリアすべきポイントや気をつけるべき点があり、導入する企業の取り扱う商材や顧客層によって変わります。
このため、自社に適した、本当に必要なAIを見極める必要があります。
既に、日本でもAIの導入により大きな成果を残している企業が増えています。
ぜひAI導入により、営業活動の効率化を目指してください。