営業スタイルといえば「御用聞き営業」「ソリューション営業(≠提案営業)」の2つが思い浮かぶ方も多いと思います。
それぞれ取り扱い商材や企業が属す業界によって一長一短あり、一概にどちらをしなければならないと決めつけることは難しいです。
ただ現代ではデジタルマーケティングの進化や非接触業態が好まれる傾向にあり、営業そのもののあり方が問われ直されているという状態にあります。
そこでプロセールス協会では、日々刻々と変化する市場のニーズ・営業方法の最適解に対応するために今、第三の営業スタイル「ハイブリッド型営業」が求められていることを提唱しております。
今回は、これまでの営業スタイルを見つめ直しつつ、ハイブリッド型営業についての見識を深め、すぐにでも社内で実践していただけるように解説します。
まず、御用聞き営業とソリューション営業の違いを知ろう
御用聞き営業とソリューション営業の違いを知るために、それぞれのやり方、セールスパーソンに求められる能力、メリット・デメリットを以下の表で解説します。
ごく簡単に説明すると、御用聞き営業は「三河屋さん(近所の酒屋さん)」のように既存顧客をルート営業のように訪問して、納品日や注文数について確認するという営業形態です。
ソリューション営業は、営業プロセスのパイプライン化(マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセス)による新規開拓がほぼ必須となります。
さらに、顧客の課題を解決するためのヒアリング力や思考力が問われる営業形態となっています。
御用聞き営業 | ソリューション営業 | |
やり方・役割 | ・顧客に用事を聞く営業方法 ・予め決まった「お願い」を叶える営業 ・訪問自体が定期的であったり、顧客側から呼び出されることもある ・指定日が決められていて、それまでに納品する ・地域密着型のビジネスに多い ・昔から、先代から脈々と関係が続いている相手であることが多い ・商品に対する顧客の理解度が深いため成立する営業方法 | ・顧客の悩み、困りごとを明らかにして、解決策として自社商品を提案する営業方法 ・「提案営業」とも呼ばれる ・「商品提案営業」と似ている ・「商品提案営業」は定期訪問で訪問ごとに異なる商品を紹介する ・「モノ売り」が最優先ではない ・顧客側に商品知識がないことが多い |
求められる能力 | ・疑問点など「問いかけ」は顧客側から来るため、きちんと説明できる能力 ・既存の人間関係を円滑に持続する能力 | ・顧客を新規開拓にするための対応力 ・自分が取り扱う商材への深い理解 ・事前準備での企業研究、業界研究が必須、分析力 ・問題解決力=顧客の悩みを思考する、「自分ごと化」する力 ・顧客の立場、業界から見た視点に立ち、仮説設定を打ち立てる力 ・未訪問時点での仮説設定、訪問時のヒアリングによる仮説のブラッシュアップ、ヒアリング力 ・顧客へベストタイミングで接触する、営業パイプライン可視化のために営業支援ツール(MA・マーケティングオートメーション)の導入 |
メリット | ・用事を聞きに行くだけであるため、セールスパーソンにとって楽 ・アポ取りしなくていい ・顧客にとっての利便性が高い(時期が来れば自動的に販売者の方から訪問しに来るため) ・現状維持が好きな顧客に向いている(取り扱い商品が変わらないため、新しい商品・サービスへの不安、忌避感を取り払う=現状維持バイアスによる優位性) ・定期訪問による顧客の現状把握がしやすい | ・いきなり「買ってください」の姿勢でファーストコンタクトが始まるわけではないため、「じゃあとりあえず」という形で話を聞いてもらいやすい ・顧客自身が認識できていない課題に訴求できれば、まだ購入を考えていない段階の顧客のニーズを掘り起こせる ・顧客の納得が得られるため、顧客満足度を高めた状態で購入手続き、アフターフォローができる ・(上記の理由から)成約後のカスタマーサクセスを通じて、アップセル(高価格帯商材の販売)・クロスセル(合わせ買い)を実現しやすい ・ニーズに訴求するため、成約率が高い ・顧客満足度の高さにより、「購買活動」でありながら感謝をもらえる ・顧客の相談に乗りながら商談が進むという一定のストーリー体験があるため、顧客のリピート、顧客側のネットワークを通じた口コミ、紹介案件につながる可能性が高い |
デメリット | ・注文が来ない限り動けない=売上が創出できない ・価格競争での弱さ=得意先が契約外の他社による飛び込み営業を受け、そちらの質が高かった場合、顧客が競合を採用する可能性が高い ・得意先をひとつ失えば、一気に不良在庫が増える=売上ダウン ・潜在顧客の開拓ができない、既存顧客へのアップセル、クロスセルが期待しづらいため商圏が拡大しない | ・接触回数、アポイント数を極端に増やすと「押し売り感」が生まれる ・商品提案営業の場合、紹介する商品が固定されていると顧客の状態にベストマッチした商品が提供できるとは限らない ・「顧客の悩みごと解決」という前提に反することは信頼の喪失につながるため、顧客のニーズに競合他社の商品が適すと判断される場合は包み隠さず伝える(=自社商材を優先して提案すべきでない)必要がある |
御用聞き営業とソリューション営業のどちらを選ぶべき?
企業の未来を見据えた場合、既存顧客とこれまでどおりの関係を続けるだけの御用聞き営業では不安が残ります。
その点、ソリューション営業は顧客の悩みを聞き取る過程を経由して、課題を解決することに視点を置いているため、長期的な関係性が期待できます。
それだけでなく、顧客の課題が解決された場合、さらに次の段階を見据えることも可能になります。
つまりより上の料金プランや別商品を提案するなどアップセル・クロスセルの機会が得られるため、提案する側にとって売上、販路といった商圏の拡大が実現しやすくなります。
悩みをヒアリングするといった顧客との深い関係性も得られるため、同業他社を紹介してもらう「紹介営業」の機会も増えます。
もし企業として、商圏の拡大を狙いたいのであればソリューション営業を選択することは自然な流れであるといえます。
御用聞き営業からソリューション営業へ変わることは難しい!
御用聞き営業からソリューション営業へ変わりたいと思った場合でも、すぐに変わることは難しいとされています。
【脳科学的に解説】御用聞き営業は単純作業なので楽、慣れてしまうと変化を嫌う原因になる
脳科学的に解説すると、御用聞き営業からソリューション営業への変化が難しい理由はホメオスタシスという人間の機能に関わっています。
ホメオスタシスとは恒常性維持機能とも呼ばれ、体の状態など「自分が置かれた環境、状況を一定のまま保とうとする機能」のことです。
ホメオスタシスが働くことで、御用聞き営業の特徴である「決まったことを繰り返すだけでいい」という簡潔な営業形態からセールスパーソンは離れがたくなります。
ソリューション営業に求められる能力は、事前準備における業界研究での思考分析力や商談本編におけるヒアリング力……など多岐にわたっており、内容も専門的となります。
勤続が長いセールスパーソンであればあるほど、新しい取り組みと向き合うことは脳に大きな負荷がかかるため、心境としては「変化したくない、移行したくない」という思いが占めることになります。
御用聞きからソリューション営業に変わるべき理由
プロセールス協会は、もはや御用聞き営業は残念ながら時代に即した営業スタイルと言えなくなってしまったと捉えています。
理由は以下の2点です。
【理由1】商品の飽和・情報インフラ発達
本段落は「御用聞き営業が選ばれなくなる理由」とも言えます。
その理由は現代が飽食の時代となった上に、toB・toC問わず消費者が自ら自分のニーズを満たせるような商品・サービスを探り当てられるようになったためです。
消費者が目的物の元へ簡単にたどり着ける理由のひとつにインターネットインフラの充実があります。
特にその中でも、これまでセールスパーソンが担ってきた「商品内容の説明」はECサイトにおける説明文が簡単に代行できているのが現実です。
「商品販売の導線上に、商品説明があって当たり前」の状態です。目の前の端末で簡単に得られる情報を差し置いて、わざわざ人的・時間的コストを使ってまで、商品説明をするだけのセールスパーソンを求める顧客は今後限りなくゼロに近づくはずです。
顧客に呼ばれるのをただ待っているだけの御用聞き営業では、顧客が必要な知識を自由に身につけられる現代においてポジティブな展開は非常に考えづらくなるでしょう。
【理由2】ソリューション営業なら「コト消費」を促せる
一方ソリューション営業は単にモノを売るわけではなく、コト消費の考え方が軸にあります。
それは「商品を買った後の新しい体験価値」を創出するということです。
具体的には、「商品を買うことで、これまでネックだった悩みを取り払うことができ、新しい事業を始められるようになる」といった体験価値を顧客にイメージさせ、与えるなどです。
顧客にとって、「まさか取り払えるとは思っていなかった悩みを払拭できるかも知れない」というイメージが得られることは大きな衝撃です。
脳科学的には「アハ体験」が起きている状態と説明されます。
新しい体験価値創出に必要な「アハ体験」とは?
アハ体験とは、凝り固まった固定概念のような思い込みがかき消されるほどの「感動」「電気が走ったような気づき」「ひらめき」「腑に落ちる状態」のことです。
意図的にアハ体験を顧客に提供する方法とは、顧客にとっての事前の期待を大きく上回るソリューションを提案するなどです。
このことで「ドーパミン報酬予測誤差」が起こることになり、購買意欲の促進に寄与します。
事前期待値よりも、「実際に与えられた価値」が高ければ高いほど、人はその事柄に価値を感じ、報酬を支払いたくなる=購買意欲が高まるメカニズム
ソリューション営業においては、顧客の固定概念を崩すために「思い込み」を消し去り、事前期待値を下げることに腐心することになります。
その上で時には「商品を売らなければならない」という自分の役割、および「販売者側の視点」さえ捨てるほどの、顧客の課題への共感・自分ごと化が求められます。
逆に、これほどまでの行動、成果への訴求がなければソリューション営業、ひいては次世代型の営業スタイルが実現しないとも言えます。
従来型営業でカバーしきれない「顧客の無自覚」
プロセールス協会は、現代では「次世代型営業」にスポットが当たりつつあると考えています。
先の段落でも解説したように、現代は商品・サービスが飽和した状態です。
ゆえに、顧客は自発的に自分に必要だと思う商品を買ってしまうため、御用を聞く機会は次第になくなってしまうでしょう。
しかし商品が飽和し、顧客にとっての選択肢があまりにも多い場合、自己の本質的な悩みがわからないまま憶測で到達した商品を惰性で利活用するという状態が起きているという現状があります。
このため「なんか思ってたのと違うなあ?」と悩みを抱えた顧客が跡を絶ちません。
この状態は、顧客が自らの本質的な課題について理解できていない「無自覚な状態」であると定義されます。
顧客自身が理解できていない領域に、顧客の本質的な課題が潜んでいるのであれば、上記のようにいつまで経っても、いくら商材を取り替えても顧客は悩みを抱えたままです。
次世代に必要なのは、顧客に気づきを与え、ベネフィットを調整する「ハイブリッド型営業」
御用聞き営業から脱却し、ソリューション営業の可能性を見出してもなお、顧客には「無自覚な状態」というものがあり、課題がいつまで経っても解決しないことがあるとわかりました。
そこでプロセールス協会は、「顧客に気づきを与え、ベネフィットを調整する『ハイブリッド型営業』」こそが次世代型の営業形態として適していると捉えます。
【ハイブリッド型営業のやり方1】気づきを与え無自覚な状態から脱却してもらう
先ほど【ソリューション営業に変わるべき理由2】で、アハ体験によって顧客に気づきを与えることの重要さについて触れました。
この「気づき」こそが「無自覚な状態」を脱却する唯一の方法です。しかも「気づき」は、セールスパーソンの側からしか提供することはできません。
顧客に気づきや感動を与えることで、セールスパーソン自身が、ひいては所属する企業が信頼を勝ち取ることができます。
【ハイブリッド型営業のやり方2】ベネフィットの調整
顧客に気づきを与え、信頼を得るためにはセールスパーソンによる「調整活動」が必要になります。
例えば、売上アップに悩む企業があったとします。
彼らはマーケティング活動が足りていないのか、商品にパワーがないのか、それとも人材かと悩み、コンサルティング会社へ相談することでしょう。
しかしながら、提供されたサービスでも売上が改善しないとなったら、本質が見えていないことになります。
実はその企業の課題が「トップセールスと経営者という2つの立場を持つ社長によるトップダウン体制」だった場合、この組織編成を替えない限りはどのようなコンサルティングも意味を成さないはずです。
この組織編成における問題を指摘し、自社商材による利益(ベネフィット)を算出させられる可能性を示唆する行為が、セールスパーソンに求められる「調整活動」です。
上記の例だと、営業支援ツールを取り扱うセールスパーソンがトップダウン体制を指摘した後に、「自社サービスで営業プロセスを可視化させられる」と提案することで、顧客のベネフィットを調整でき、成約につながると考えられます。
本段落で取り上げた例のような営業活動は、セールスの場であればどのような業界でも今後必要になると考えられます。
前時代的な営業から抜け出し、ハイブリッド営業を手に入れよう
これまで、営業スタイルとしては御用聞き営業、商品提案営業、ソリューション営業とあり、市場のニーズ変化と共にだんだん後者の重要性の比率が高まって来ました。
もちろんどちらの営業スタイルにもメリット・デメリットが存在し、あくまで既存の営業スタイルが効果を発揮する場面もあることでしょう。
しかしながら情報インフラの発達とともに、営業における顧客への提案は非常に難しくなりました。
また顧客自身も、自己の本質的な課題について無自覚な状態となってしまうケースも散見されます。
そこで顧客に「気づき」や「ベネフィット調整」を提供するハイブリッド型営業がこれからの時代には必要です。
ぜひ営業における売上その他原因で伸び悩みを感じられている場合、本コラムを参考に新たな営業スタイルを身に着けてみてください。